レギュラーに定着した年にチームをけん引する活躍を見せ地区優勝に大きく貢献した日立サンディーバの藤森捺未選手。しかし全国優勝という夢には届かなかった。次なる頂点をめざす戦いはもう始まっている。
藤森 捺未
日立ソフトボール部 日立サンディーバ
ふじもり・なつみ
徳島商業高校、園田学園女子大学を経て、2022年に日立製作所に入社。日立ソリューションズ・ITプラットフォーム事業部に出向となる。24年シーズンにレギュラーメンバーに定着し、好成績を残す。右投左打。
女子ソフトボールの国内最上位リーグ「JDリーグ(Japan Diamond Softball League)」。藤森捺未選手は2024年シーズンで、東地区の最高殊勲選手、首位打者賞、ベストナインの3冠を獲得した。打率は4割7分6厘。これはリーグの全選手中トップであり、他に打点20、本塁打7本も記録している。
日立サンディーバに所属して3年目の2024年は、自身にとって最高のシーズンとなった。ただ一つ、チームが優勝を逃したことを除いては──。
日立ソリューションズの一員であり、日立グループのソフトボールチーム「日立サンディーバ」の1番バッターとして、昨年から全試合に出場している藤森選手。左打ちの1番打者でポジションがライトと聞けば、あのイチロー氏を想起せずにはいられない。しかしイチロー氏選手が記録した最高打率は、オリックス・バファローズ在籍時の3割8分7厘である。野球とソフトボールという競技の違いがあるとはいえ、また日本のプロ野球や米メジャーリーグとは年間の試合数が大きく異なるとはいえ、あの天才バッターもなし得なかった4割台という数字を達成したことには驚く他ない。素晴らしい成績を残すことができたのには理由がある。藤森選手は話す。
「23年シーズンが終わってから中軸を打っていた選手が3人も抜けてしまい、周囲からも"日立は大丈夫かな"という声が寄せられていました。もちろん私たちも不安でした。その不安を払拭するために、私自身がチームに貢献したい。何よりもバッティングで貢献したい。そう考えて、オフシーズンのトレーニングに打ち込みました」
筋力をつけ、体幹を鍛え、速い球に押し負けない身体をつくる。その目標を持ってつらいウエイトトレーニングに取り組んだ結果の首位打者賞だった。
もちろん、強い思いを持っていたのは藤森選手だけではなかった。JDリーグは、計16の実業チームを東地区・西地区それぞれ8チームに分け、各チーム年間29試合を戦う仕組みになっている。24年、日立サンディーバはこのリーグで東地区初優勝を果たした。
「うれしかったのは、ホームランバッターが3人も抜けたのに、年間の得点で23年を上回ったことでした。全メンバーが"打って勝つ"ことにこだわった結果の地区優勝だったと思います」
地区1位となったチームは、プレーオフを勝ち残ったチームと戦い、勝てば全国優勝を決める決勝戦に進むことができる。日立サンディーバは、3大会連続でオリンピックに出場している上野由岐子選手を擁するビックカメラ高崎ビークイーンを3対1でくだし、トヨタレッドテリアーズとの東西頂上対決に臨んだ。結果は2対1。わずか1点差での悔しい敗退だった。
小学校の時に少年野球チームに入り、高校でソフトボールを始めた。高校卒業後、ソフトボールの名門・園田学園女子大学の女子ソフトボール部に入部し、4年次にキャプテンとしてチームを全国優勝に導いた。多くの企業チームの目にとまり、数々のオファーが来たが、選んだのは日立サンディーバだった。試合を見て、「ソフトボールらしくないソフトボールのスタイル」に魅力を感じたことが1番の理由だったという。
「私が知っているのは、ランナーが出塁したら、バントで送り、ヒットエンドランで進めて、スクイズで1点を取る堅実なスタイルのソフトボールでした。でも日立の選手は、ランナーがいてもいなくても、どんどんバットを振ってヒットやホームランを狙っていました。その攻撃的なスタイルにとても心を惹かれました」
もう1つの理由は「プレーする様子がとても楽しそうだったこと」だ。監督の指示待ちではなく、選手一人ひとりが自ら考え、個性を自由に表現しのびのびと動く。こういうチームで自分もプレーしてみたいと思ったと振り返る。
練習を見ていると、「自由にのびのびと」というのが、まさにこのチームのカラーであることがよく分かる。練習中のグラウンドでは、いつも音楽が流れている。音楽を流す方針を決めたのも、曲を選ぶのも選手である。選曲担当は背番号順に持ち回りになっていて、曲の種類によって誰が選曲したかが分かるという。「それぞれの選手の好みや味が出るのが楽しい」と藤森選手は言う。
練習中に雰囲気が悪くなる場面もあるが、そんな時には選手一人ひとりが雰囲気を変える努力をする。「常に前向きな気持ちでプレーしたい」というマインドが行き渡っているから、試合で劣勢になった時にも決して下を向くことはない。それもまたこのチームの強さの1つの要因なのだろう。
昨年まで副キャプテンを2年間務めた。チームメンバーに伝える言葉に説得力を持たせるためには、自分が常にいいプレーをしていなければならない。そんなことをいつも心がけてきたという。とはいえ、自分の言葉とプレーだけでチームを引っ張ろうとしてきたわけではない。キャプテンや仲間たちと協力し、時に支え、時に支えられることで自分の役割を果たすことができた2年間だった。今年から副キャプテンは後輩に譲るが、この2年間の経験を活かして、リーダーたちをバックアップしていきたいと話す。
選手はみな練習用グラウンドから徒歩10分ほどのところにある寮で暮らしている。通常は朝8時半から全体練習がスタートし、15時くらいに終わる。その後は、各人が自分の課題に応じて自主トレーニングに打ち込む時間となる。18時の夕食をもって、1日の活動は終了する。
4日に1日のペースでやってくるオフの日には、ひたすらリラックスすることを心がけている。映像配信で韓国のドラマを見ること、チームの仲間とカフェに行ったり、ランチを食べたりすることが一番の楽しみだという。
日立ソリューションズへの出社は月に2、3回程度で、生活のほとんどの時間をソフトボールに費やすことができる。その環境を与えられていることに心から感謝していると藤森選手は話す。
「会社の皆さんの支えがあってこそ成り立っているチームです。私たちにできるのは、全力でいきいきとプレーする姿を皆さんにお見せして、元気になっていただくことだと思っています」
2024年シーズンの決勝戦。負けたことはもちろん悔しかったが、楽しい経験でもあったと藤森選手は言う。もしあと一勝できていたら、もっともっと楽しかったはず──。その思いが、選手一人ひとりのモチベーションになっているのだ、と。
JDリーグ、全日本総合選手権大会、国民スポーツ大会。これが現在の日本の女子ソフトボールの3大大会である。そのすべてで優勝し、真の日本一になることが25年の日立サンディーバの目標だ。頂点をめざすチャレンジが、今年も続いていく。
1985年創部。2000年にリーグ1部初優勝、国民体育大会優勝の2冠を達成。現在は本拠地を神奈川県横浜市に置き、日本一をめざしてチーム強化に取り組んでいる。
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<日立サンディーバ公式HP>
https://www.hitachi.co.jp/Div/soft/SOFTBALL/