顧客管理システム(CRM)や営業支援システム(SFA)をクラウドで提供するセールスフォース社。対話型AIアシスタント「Einstein Copilot」の提供開始からまだ間もない中で、新たに自律型AIエージェント「Agentforce」を発表して話題を集めています。そのセールスフォース社の年次イベント「Dreamforce2024」が2024年9月17日から3日間にわたり開催されました。
梶井 法子
Hitachi Solutions America
Business Development Specialist
Business Development and Alliance Group (BDAG)
日立ソリューションズ入社後、インフラSEを経験した後、営業へ異動。製造業のアカウントSalesとソリューション拡販を担うソリューションSalesに従事。2024年4月からHitachi Solutions America出向。
会場はサンフランシスコのモスコーンセンターや周辺施設で、同社が「Trailblazer」と呼ぶコミュニティのメンバー(顧客やパートナー、従業員など)が集結し、基調講演や多彩なセッションを通して最先端の情報に触れつつ、実践的な知識や技術を学びます。メンバーにとってはリアルな交流の場でもあり、エキスパートとの情報交換やパートナーシップ構築の機会になっています。
参加者数4万5000人のうち、日本からの参加は700人ほどで、様々な業界の方が参加していました。会場では日本向けの場内ツアーが開催された他、マーク・ベニオフCEOのセッションでは2000~3000席のうち500席が日本向けに確保され、冒頭に「こんにちは」など日本語での挨拶もあり、日本市場を強く意識していることがうかがえました。
話題の中心はやはりAIエージェント「Agentforce」でした。会場のあちこちにアインシュタインやロボット、動物を模したオリジナルキャラクターが飾られていたのですが、従来のカラフルなデザインから一新、白と水色を基調とした近未来的なイメージで統一され、新しい時代の幕開けを想起させる演出が印象的でした。
セールスフォース社はキャラクターが充実しているのが特徴。
従来は動物や人のキャラクターだったが、「Agentforce」のリリースに伴い、
ロボット化したキャラクターに一新された
今回のAIエージェントは第三の波と呼ばれています。第一の波は膨大なデータを使ってAIで高精度の予測をする予測AI、第二の波は生成AIで自然言語に対応するAIアシスタント(Copilots)。第三の波AIエージェントは、Copilots がアシスタントであるのに対して、エージェントという位置づけです。AIアシスタントは人間が入力したプロンプトに対してテキストや図表を返すなど、人間の補助的な役割にとどまっていましたが、AIエージェントは自律的にタスクを処理することが特徴です。コールセンター業務ならば事前にシナリオを用意しなくても多様な質問に対応できますし、一般業務でも社内からの問い合わせに自律的に返答が可能とのこと。
ベニオフCEOがキーノートで「Copilot からエージェントに舵を切った、これがAIの最前線だ」と強調していたのは、AIエージェントによりプラットフォームのアーキテクチャが大きく変わるからです。もともとセールスフォース社は人間を中心に、データやアプリケーションを周囲に置く開発思想だったのですが、今回、中心が人間からデータに移ります。このことは今後のビジネスにおいてAIが欠かせないものとなること、そしてデータの重要性がより一層高まり、AIとデータが企業の優位性の源になることを示唆しています。
とはいえ、なんでもAIが行うようになるわけではありません。ビジネスの中心はやはり人です。「Agentforce」は決められた範囲のタスクのみ代理で行うと理解していますし、セールスフォース社側も「AIとの共存」を繰り返し語っています。今年のイベントのテーマ「Humans with Agents Drive Customer Success Together.(人間とエージェントが協力し、顧客を成功に導く)」は、まさにそのコンセプトを表していました。
現状の「Agentforce」は新機能が徐々に追加提供されている段階ですが、アダム・エヴァンスSVPはキーノートで教育リソース企業やレストラン予約サイトなどの先行事例を紹介していました。
その1つがウォルト・ディズニー・カンパニー社です。同社のテーマパークでは落とし物などの困り事が一定数発生し、現状はキャストが問い合わせを受けています。しかし、パーク専用アプリにAIエージェントを入れておけば、様々な出来事にAIが自律的に対応、迅速に解決できる可能性があります。一方、キャストは問い合わせ対応の時間をゲストとのコミュニケーションに振り向けられますから、更なる体験価値向上が期待でき、キャストにもゲストにもメリットがあるというわけです。既存のチャットボットはロジックが必要ですが、AIエージェントは定型外のことにも柔軟に対応できるので、今後はAIエージェントへのシフトが進みそうです。
EXPOでは様々な展示が行われ、
セールスフォース社のコミュニティであるTrailblazer(顧客、パートナー、従業員など)が
最新のテクノロジーやデモについて学び、情報交換することができるようになっている
日本企業は新しい技術の導入に慎重ですが、海外の成功事例が増えると、それに追従し、一気に広がる可能性があります。近い将来、AIと協働する日が必ずやってくるでしょう。その時AIは人間の労働を代替しますが、すべてではなく役割分担をすることになります。リアルな同僚もいれば、AIの同僚もいる、というイメージです。
セールスフォース社ではAIの開発環境整備にも取り組み、非エンジニアでもノーコード/ローコードでシステムを構築できるツールを用意しています。イベント会場でも簡単なシステム構築を体験できるコーナーがあり、参加した当社社員は「直感的で分かりやすい」と言っていました。ただし、AIに対する考え方や理解度は人それぞれです。AIのトレンドに詳しい方とそうではない方、あるいは経営層と現場では、かなり違った印象を持っていると思われますから、その点は配慮が必要です。
これまで企業は人間が働くことを前提に経営戦略を策定してきましたが、これからは人間とAIが協働する時代であり、AIが成長のカギを握っているのは間違いありません。少子高齢化と人手不足の日本において、人間がやるべき仕事の価値はますます高まっています。AIができることはAIに任せて、人間は人間にしかできない仕事を選び、いかにして人間ならではの価値を創出していくかを考えていく必要がありそうです。