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【対談】人類の新たな目標としてのウェルビーイング

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ウェルビーイングをテーマに活動する公益財団法⼈Well-being for Planet Earthの代表である石川善樹氏と、日立ソリューションズ スマートライフソリューション事業部長の田屋秀樹。二人が考えるウェルビーイングの本質とは何か。そして、それを実現する意味とは。

※本記事は2024年10月に掲載されたものです。
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    石川 善樹

    公益財団法⼈Well-being for Planet Earth
    代表

    いしかわ・よしき
    広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業。米国ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。2018年、公益財団法⼈Well-being for Planet Earthを設立。ウェルビーイング分野の革新と社会実装をめざしている。

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    田屋 秀樹

    株式会社日立ソリューションズ
    常務執行役員

    たや・ひでき
    富山県出身。1988年、日立グループに入社。公共や通信会社の案件を手掛ける。2019年、産業イノベーション事業部の副事業部長に就任。21年に執行役員兼スマートライフソリューション事業部長、24年に常務執行役員となる。

ウェルビーイングとは尊厳が守られていること

田屋:日立ソリューションズのスマートライフソリューション事業部がめざしているのは、テクノロジーを駆使して企業の働き方改革を支援すること、そしてその結果として豊かな暮らしを実現することです。従業員が働きやすく力を発揮しやすい職場環境のキーワードの一つが「ウェルビーイング」です。仕事におけるウェルビーイングとは、幸福度や満足度を意味すると私たちは考えています。石川さんはウェルビーイングという言葉をどう捉えていらっしゃいますか。

石川:ウェルビーイングの概念は時代とともに変化してきました。1940年代は、ウェルビーイングはほぼ「福祉」と同義でした。近年では「豊かさ」「幸せ」「生活満足度」という意味合いが強くなっています。しかし、豊かさや幸せがウェルビーイングなのであれば、経済的に充足していればウェルビーイングが実現しているということになってしまいます。そのような視点を踏まえて、最近は「人としての尊厳が守られていること」という意味が加えられるようになってきました。

田屋:「尊厳」ですか。

石川:そうです。例えば、難民支援において重視されるべきは「恐怖からの自由」と「欠乏からの自由」であると従来は考えられていました。しかし、暴力から守られ、食べるものの心配がないというだけの状態では、人はいきいきと暮らすことはできません。人としての尊厳を持って生きられる環境が必要です。これを職場に当てはめてみると、「恐怖からの自由」は心理的安全性が確保されていること、「欠乏からの自由」は雇用が保証されていること、「尊厳の尊重」は、人として大切にされていることを意味します。こういった観点から「ウェルビーイングが実現している状態とは?」と聞かれたら、「恐怖がなく、欠乏から自由であり、尊厳が守られている状態」と考えられるようになりました。

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田屋:役職や仕事の内容に関わらず、一個人として存在を認められるということ。それが職場において尊厳が守られている状態と言えそうですね。働く人の尊厳を守るには、職務内容をできるだけ自由に選べる環境づくりも大切だと思います。現在私たちは、お客様企業の社内フリーエージェント制や社内副業の仕組みを支えるソリューションを開発しています。社員の皆さんが希望するポジションやスタイルで働くことができれば、よりいきいきと能力を発揮できるようになり、一人ひとりのウェルビーイングが高まるはずです。

石川:大変重要な視点だと思います。もう一つ、職場におけるウェルビーイング実現をめざす際に、考えるべきポイントがあります。「誰と働くか」、つまりチーム編成です。こんな話があります。日本における業務改善の取り組みは、ご存知の通り「カイゼン」という言葉で海外でも知られています。しかしどれだけカイゼンを重ねたとしても、現場によって生産性にばらつきが出るという問題がありました。とある工場で検討を重ねた結果、「社員同士の組み合わせ」という要素が実は仕事のパフォーマンスに大きく左右していることが見えてきました。相性が悪い人同士が一緒に働くと生産性が落ちるけれど、相性がいいと仕事が楽しくなり、結果としてパフォーマンスも向上する。そんなことが分かったわけです。「どんな仕事をするか」はもちろん大事なのですが、「誰と仕事をするか」もウェルビーイングや生産性に大きく影響するということです。

田屋:仕事が楽しいということがウェルビーイングの重要な要素であり、その楽しさは一緒に働く人によって増進される──。納得できるお話です。私たちの事業部では、日々の仕事だけでなく「職務外の愉しみ」も大切にしようという方針を掲げて、様々な取り組みを進めています。あえて「楽しみ」ではなく「愉しみ」という字を使っているのは、「愉しみ」には心から喜びや嬉しさを感じるという意味合いがあるからです。例えば、経営層と従業員が直接オンラインで対話をするタウンホールミーティングや、オンラインコミュニティの運営、リアルに顔を合わせる納会などをこれまで実施してきました。職場における日常の縦の関係とは違った横の関係をつくることによって、この会社に属していることの「愉しみ」を感じ、それが仕事の「楽しみ」につながる。そんなサイクルをつくっていきたいと思っています。

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新たな視点を得て進化するSDGs

田屋:日立ソリューションズは、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)という言葉を掲げて、様々なサステナビリティの活動に取り組んでいます。サステナビリティとウェルビーイングとの関係をどう捉えればいいか。お考えをお聞かせください。

石川:これまでサステナビリティとウェルビーイングの間には、一部トレードオフの関係がありました。人がウェルビーイングを追求することによって環境に負荷がかかる。一方、環境を守るためには人の経済活動や社会活動を制限しなければならない。そんな関係です。サステナビリティは環境中心の思想であり、ウェルビーイングは人間中心の思想であったと言ってもいいかもしれません。しかし最近になって、それぞれの思想の間に歩み寄りが生まれ始めています。サステナビリティには「人間」という視点が欠かせないし、ウェルビーイングには「将来世代の環境づくり」という視点が必要である。そう考えられるようになっているわけです。現在国連では、ポストSDGsのアジェンダの検討作業が進められていますが、次は「SDGs」から一歩進んで「SWGs (サステナブル・ウェルビーイング・ゴール)」になるのではないかという見方もあります。人と社会と地球の持続的ウェルビーイングをめざす。そんな目標が掲げられる可能性は大いにあると思います。

田屋:ウェルビーイングという視点を加えることによって、SDGsが進化するわけですね。

石川:おっしゃる通りです。例えば、SDGs17の目標の8番目に「働きがいも経済成長も」という項目があります。人を尊重する雇用と経済活動を両立させようという目標です。SDGsでは、17の目標のそれぞれに対し、達成のKPIを設定しています。8番目の目標のKPIは「銀行口座を持つ人の数」です。2011年の時点で銀行口座を保有する人の割合はグローバルで50%ほどでした。それが直近の調査では80%くらいまで上がっています。この数字は、現在のSDGsのターゲットイヤーである30年までにもっと伸びるでしょう。では、その先にどのような目標を設定すべきか。恐らく、「銀行口座を持って経済的に安定した人たちが、ウェルビーイングな経済活動を行えるような環境づくり」が次の目標になると私は考えています。同様に他の16の目標も、ウェルビーイングの視点で進化させることが可能だと思います。

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難題に果敢に挑む人間でありたい

田屋:石川さんは『フルライフ』という著書の中で、仕事のキャリアを3段階に分ける考え方を提唱されています。最初が、仕事に一生懸命取り組む「ハードワーク期」、次が周囲からの信頼を集める「ブランディング期」、そして最後が自分の知識や経験を社会や後進の人たちに還元していく「アチーブメント期」です。私は、自分のキャリアはまさにアチーブメント期に入っていると感じています。これからの自分に何ができるか。それを考えると、とてもワクワクします。私がいつも大切にしてきたのは、「終わったことは変えられないが、終わったことに学べば未来は変えられる」という考え方です。私自身これまで何度も失敗をしてきたし、たくさんの部下の失敗をフォローしてきました。そのような失敗から得た学びを次世代の人たちの未来の糧にしてもらえるよう努力したい。そう思っています。石川さんのこれからの目標もお聞かせいただけますか。

石川:私は毎年正月に茨城県日立市の御岩神社にお参りに行っています。そこに向かう途中に、有名な「日立の大煙突」があります。久原鉱業所日立鉱山が煙害を防ぐために建設した高さ約160mの煙突です。現在は倒壊して50mほどの高さになっていますが、まだ煙突として使われています。この煙突は、人々の健康と環境を守りながら経済発展をめざすという難題に先人たちが取り組んだ証しです。この煙突を見るたびに、先人の高い志があったからこそ今の社会があるのだと私は感じます。この煙突を建設した人たちのように、目の前の課題から逃げることなく、難題に果敢に挑む人間でありたい。それが私の目標です。

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