日立ソリューションズは、シリコンバレーで社員が2名1チームとなり、自らの社会課題解決アイデアで起業をめざす「スタートアップ創出制度」を2023年4月1日より開始しました。社内公募で選ばれた社員はシリコンバレーにおいてトレーニングを受けながら、VCなどからの資金調達に挑戦します。そして日立ソリューションズから独立し、スタートアップ企業として事業成長していくことをめざします。このようなエッジのきいた企画を開始した背景とは何だったのでしょうか?
市川 博一
日立ソリューションズ
経営戦略統括本部
グローバルビジネス推進本部
戦略アライアンス部
スタートアップ創出プロジェクト事務局
当社では、米国シリコンバレーの拠点を中心にスタートアップ商材を発掘して日本国内で展開する活動を行っています。私自身も2010年から16年までシリコンバレーの拠点に赴任していました。帰国してからも発掘された技術を受け入れる側に立ち、数多くのスタートアップの最先端技術や商材を扱ってきています。一方で、当社が日本国内で開発した技術や商材をアメリカで展開しようとしても失敗が続いています。単に技術や商材をアメリカに持ち込むだけでは不十分で、グローバルなビジネス思想や価値観を持った人財が必要だと痛感しました。
そこで、21年初頭から1年ほどかけて練り上げたのが、シリコンバレーで起業方法を学びながらスタートアップ創出をめざす「日立ソリューションズ発スタートアップ創出制度」です。資金を投じて優秀な人財をシリコンバレーに送り出し、うまくいけばそのまま起業させるという、当社としてはかなりエッジの利いた企画にもかかわらず、経営幹部はこの企画を認めて、実現に向けて後押ししてくれました。
社内公募で選ばれたチームは、渡米後シリコンバレーで起業トレーニングを受け、ゼロからビジネスを立ち上げて、1年後に独立するかどうかの判断を行います。そこまでは赴任手当や必要なコストも支払いますし、そこで独立できなくても会社に戻れるというセーフティネットを用意しています。さらに半年間かけて会社を立ち上げて、外部VCからの出資を受けて本当の独立となります。
とはいえ、世界中のビジネスエリートがひしめき合うシリコンバレーで成功できるのはほんの一握りにすぎません。それでもチャレンジしてくれるチームには感謝しかありませんし、独立できなかったとしても、グローバルで戦うスキルやマインドセットを身につけることは当社にとって大きな価値になるはずです。今年で2年目を迎えるプロジェクトでは新たに2チームが選抜され、この4月から活動を始めています。今後も長くプロジェクトを継続していけるよう、事務局としてもチャレンジを続けていきたいと思います。
井上 正彦
Paletter ※
プロダクト・マネージャー
日立ソリューションズ入社後、インフラSE、外販インフラSE 、人財マッチングやAI 面談の新事業創成活動を経て2022年10月からHitachi SolutionsAmerica出向。
上田 淳
Paletter
サービス・デザイナー
日立ソリューションズ入社後、プログラマ、ネットワークSEを経験した後、日立製作所に転籍。研究開発グループを経て、2022年10月からHitachi SolutionsAmerica出向。
※起業をめざす会社名
― 渡米後はどのようなことに取り組んでいますか。
井上:最初の数カ月は座学でスタートアップについて学びながら、ターゲットになりうる人たちにインタビューをして顧客が抱えている課題やそれを解消するソリューションの可能性などをヒアリングしていきました。そうして形にしたソリューションのアイデアを持って展示会に出展して、インサイトマーケティングや、検証を重ねていきます。渡米して間もなく英語も拙い時期に、コネクションも一切ないところでインタビュー対象を見つけるのはひと苦労で、最初の山だったと思います。
― シリコンバレーと日本ではどんな違いがありますか。
井上:仕事の基本的なやり方に違いはありませんが、完成度の高さより、スピード感が重視されるなど、日本とはビジネス習慣や考え方がかなり違うので、意識的に考え方を変えていかないと市場や顧客についていけません。
上田:アウトプットの抽象・具象のレベル、出すタイミング、スピードに違いがあります。特に早いタイミングで具象を示さなければ相手に理解してもらえません。一緒に仕事をするデザイナーから、
"Introduction,Example,Conclusionの構成を元に、IntroductionにConclusionの一部を示す。学生の頃から身につけている考え方だ"と言われました。教育の違いを観察することでビジネスの役に立つ可能性があります。
展示会での様子
― シリコンバレーに来たメリットはどんなことですか。
上田:チャレンジすることから得られる経験そのものが自身へのメリットです。今後は経験から見いだした大企業ならではの手法と、日立グループへのフィードバックを通じて、これまで以上にチャレンジが奨励される社会をつくりたいと思います。
井上:成長し続けられるということが一番大きいです。その様子をこのような媒体や社会活動を通して若い人たちに伝えて、彼らの刺激になってもらえればと思っています。
― 今はスタートアップとしてアメリカで活動していますが、改めて日立グループの強みを感じることはありますか。
井上:個人のマインドセットもありますが、これまでのシステム開発を通じて身についた仕事の型だとか基本動作といったものは強みですし、どこにいても通じるものであることが分かりました。このプロジェクトはそれがスタートアップ起業の本場、米国シリコンバレーでどこまで通用するのかを試すことでもあり、自分たちの成果が今後に向けた大事な試金石の1つになると思っています。
上田:事業部門、スタッフ部門、研究部門があることが日立グループの強みであると感じています。特に知財や法務、調達などのスタッフ部門のおかげで、事業と研究に集中できていたことに感謝しています。今後、このようなスタートアップを創出する試みはスタッフ部門を持つ大企業だからこそ増えていくと思います。
シリコンバレーのオフィスの様子