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サステナビリティに欠かせないイマジネーションの力

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最終回は、本当の意味でのサステナビリティを実現するために必要なこと、そして様々な世代、様々な立場の企業人が心にとめておくべきことを考えます。

※本記事は2022年6月に掲載されたものです

渋澤 健(しぶさわ・けん)
渋澤 健(しぶさわ・けん)
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役
講師プロフィール
1961年生まれ。渋沢栄一の5代目の子孫。83年テキサス大学化学工学部卒業。財団法人日本国際交流センターを経て、87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。米系投資銀行、ヘッジファンドを経て、2001年にシブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。07年コモンズ株式会社を創業(08年コモンズ投信株式会社に改名し、会長に就任)。2021年にブランズウィック・グループのシニアアドバイザーに就任。経済同友会幹事、岸田内閣「新しい資本主義実現会議」有識者メンバー、UNDP(国連開発計画)SDGs Impact 運営委員会委員などを務める。
著書『渋沢栄一100の訓言』、他多数。

ハウツーに代わるパーパス経営の重要性

環境問題や世界情勢など、社会全体のスケールで物事を考えた時、サステナビリティの発想が重要であることは誰もが理解していることでしょう。とはいえ、コロナ禍や景気低迷といった実情を前にして、「うちの会社はサステナビリティどころじゃなくて、明日を生き抜くのも大変だ」という経営者も多いかもしれません。しかし、目の前のことにとらわれすぎると、サステナビリティの本質を見失ってしまいます。

この連載の第2回では、地球上の生物の中で人間だけに与えられている能力として、イマジネーションがあると述べました。自分自身は今ここにある存在に過ぎませんが、イマジネーションによって私たちはいつでもどこでも、過去でも未来でも行くことができます。

例えば、子どもや孫の将来の幸せをイメージして、今の私たちがサステナビリティに力をつくすというのは、まさにイマジネーションの力があるからできることです。

ところが、現在の日本社会では与えられた仕事をPDCAで回すなど、ハウツーの発想に陥りがちです。目の前の問題をどう解決すればよいか、ということだけに気をとられてしまうのです。

確かに、厳しい状況を前にして悠長なことはいってはいられないという気持ちも分かります。しかし、こんな研究を聞いたことがあります。それによれば、大きな災害や困難に直面した時に、目の前の苦境だけを見て悲嘆に暮れている人よりも、どれほど大変であってもその後のことを考えて楽観性を失わずにいた人のほうが生き延びる確率が高いというのです。これは、まさにイマジネーションの力ではないでしょうか。

右肩上がりだった昭和の時代の日本企業では、ハウツーが優れた人に労働価値があるとされてきました。しかし、とうの昔に日本を取り巻く環境は変わっています。企業も企業人も変わらなくてはなりません。

第4回でも述べたように、ハウツーに変わる指針として大切なのは、「そもそもなぜなのだろう」という視点を持つことです。近年は、企業の存在意義を意味する「パーパス」を核とした「パーパス経営」が注目を浴びていますが、それはまさに「そもそもなぜだろう」という問いかけの答えを自分事として持っていることからはじまるものです。与えられたミッションを淡々と(あるいは渋々と)執行することだけでなく、これからの日本では、優れたパーパスを持つ企業が伸びていくことでしょう。

目先のことも大事ですが、目の前のことを解決するだけでは単に現状維持をめざしているに過ぎません。現状維持とサステナビリティはまったく異なるものです。現状維持は「今のままでいい」という立場であり、それに対してサステナビリティは、場合によっては自分のやっていることをガラガラポンして、すっかり変えてしまうことも必要です。大きなリスクや労力が必要かもしれませんが、それが自分の家族、子孫、事業、社会を持続可能にするわけです。

将来を見通すには、イマジネーションの力は欠かせません。イマジネーションがなければサステナビリティはあり得ないのです。

シニア世代は「昭和は終わっている」と認識すること

昭和の時代に入社した私たちの世代は、バブル絶頂期からバブル崩壊、そしてデジタル化社会へと激動の時代を過ごして定年を迎えつつあります。周囲を見わたしてみると、うまく対応できている人とそうでない人との差が大きいように感じられます。

50代、60代のシニア世代に対してあえてアドバイスをするとすれば、自分たちがこれまで得てきた30年の常識で、ものごとを考えないことが大切だと思います。「昭和は終わっているんだ」と再認識する必要があります。すでに平成も終わり、令和がはじまっているのです。

中には「また時代が変われば、あのバブルのような楽しい時代が戻ってくる」と思っている人もいるかもしれませんが、それはあり得ません。残念ながら、あの時代はもうこないのです。「そんなことは分かっている」と反論されるかもしれませんが、頭では理解していても体に染みついた昭和のやり方はなかなか払拭できないものです。

もちろん、シニア世代がこれまで培ってきた知識や経験を活用することは、本人にとっても社会にとっても重要です。ただ、これまでの延長線上でやっていってよいのかと、少なくとも自分に問いかける必要はあると思います。従来の枠内にとどまることなく、様々な体験をすることが大事です。

これまでは、「会社のためイコール自分のため」でやってきたことを、これからは「次の世代のため、社会のため、環境のため」など、他の「ため」に自分は何ができるかという意識を持つことが大切です。

やってはいけないのが「私は昔部長だったから」「オレが入社した時は」と若い人に説教すること。若い世代に学ぶべきことは山ほどあります。謙虚になって学ぶことは、自分の成長にもつながります。

時には「コンフォートゾーン」から出ることが必要

若い人に対してのアドバイスは、「ルーチンを壊せ」ということです。会社員にも学生にもルーチンがあり、毎日同じ環境で同じような人が集まって時間を過ごしていくと、誰もが同じタイミングで同じスイッチがオンになり、オフになっていきます。

そんな環境で過ごすのは気楽であり、会社は一種のコンフォートゾーンになります。もちろん、誰もが心地よい環境にいたいという気持ちはありますが、常にコンフォートゾーンにとどまっていると、その枠の外の世界がどう動いているのかが見えなくなってしまいます。心地よく過ごしているうちに、気がついたら世界はまったく変わっていたということになりかねません。

ですから、時には自分のコンフォートゾーンから出ることによって、今までオフだったスイッチをオンにして、オンだったスイッチをオフにする必要があるのです。

分かりやすくいえば、昔からいわれていることですが、若いうちに様々な体験をすることです。さきほどはイマジネーションの重要性について述べましたが、イマジネーションのベースは体験です。体験したことが限られている人は、そのベースからしか物事が考えられません。

経済が振るわないとはいえ、世界全体でみれば日本は先進国ですから、他の多くの国よりも可能性や選択肢は多くあります。社会的基盤もしっかりしています。せっかくそんな環境にいるのですから、ぜひともそれを活かして、いろいろなことにチャレンジしていただきたいと思います。

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