日本のジェンダー格差の課題は?
サス:みなさん、こんにちは。今回のテーマは働き方です。17の目標の中から、5番目の「ジェンダー平等を実現しよう」と8番目の「働きがいも経済成長も」について考えていきたいと思います。
特にジェンダー平等は、私たち日本に住む女性には、とても気になる問題です。
ジェンダーギャップ指数
(2019年12月) 出典:世界経済フォーラム |
デベ:ですよね。世界経済フォーラムでは、毎年各国の男女格差を調査する「ジェンダーギャップ指数」というのを発表しますが、2019年12月の発表では世界153カ国のうち、日本は121位でした。2018年の110位からさらに後退しているんですね。特に経済・政治の分野のスコアが低く、経済は115位、政治は144位です。
ゴー:日本は後退したんじゃなくて、何もしなかったんだと分析する研究者もいます。他の国がいろいろ改善しているのに対して、日本は現状維持だったという見方です。この数年間で日本を追い抜いたのは、インド、韓国、マレーシア、カンボジアといった国でした。
サス:厳しい現実ですね。「ジェンダー平等を実現しよう」の詳しい内容は次のようになります。
「ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」
達成目標となるターゲットは、次の3つに注目したいと思います。
[ターゲット]5.4
公共のサービス、インフラ及び社会保障政策の提供、並びに各国の状況に応じた世帯・家族内における責任分担を通じて、無報酬の育児・介護や家事労働を認識・評価する。
[ターゲット]5.5
政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参画及び平等なリーダーシップの機会を確保する。
[ターゲット]5.b
女性の能力強化促進のため、ICTをはじめとする実現技術の活用を強化する。
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ゴー:日本のジェンダー格差が縮まらない問題、2人はどう思いますか。
デベ:いろいろ原因があると思いますが、私の個人的な意見では、いちばん大きなものはイノベーションの遅れだと思いますね。企業にしても官公庁にしても、なかなか旧来のやり方を変えられない。日常でICTを使いこなしていない人が、いまだに政財界のリーダー層にたくさんいますよね。それに前例のないことをやりたがらない傾向がある。だから、女性の役割も格差のあるまま引き継がれてしまうのだと思います。
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サス:私は家事、育児、介護が、日本の場合、女性に多く依存しすぎるのが大きな原因だと思っています。さて、どんな課題があるのか、考えていきましょう。
急速に広まるテレワークが突破口
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サス:新型コロナウイルスの影響で、テレワークをする人が増えたでしょ。この働き方の変化がジェンダーギャップを改善する、ひとつのきっかけになるんじゃないかしら。
ゴー:僕もそう思いますね。在宅勤務には、テレワークとリモートワーク、2つの言い方があるけど、何か違いはあるんでしょうか?
デベ:アメリカではオフィスをメインに家で仕事するスタイルがテレワーク、自宅などオフィス以外をメインに働くスタイルをリモートワークという気がします。オフィスでの仕事をあまり必要としないIT業界の人たちはリモートワークということが多いですね。日本には以前から日本テレワーク協会というのがあり、政府もテレワークという表現を使用しているので、テレワークのほうがなじみがあるようです。
サス:在宅での新たな働き方が広がれば、育児などで仕事の量や内容を制限せざるを得なかった女性たちは活躍の機会が増えますね。
ゴー:在宅なら家事や育児、介護をしながらでも仕事ができる。パートナーもフレキシブルにテレワークができる職種なら、家事や育児の分担もしやすいですね。
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サス:そうですね。特に小さな子どもがいる家庭では、子どもが話しかけたり、遊びたがったりで、なかなか仕事にならないと聞きます。昼間は軽い仕事をこなして、子どもを寝かせてから集中して仕事をする、なんて声も耳にします。これでは超過労働になってしまう。パートナーと家事や育児を無理のないように分担できればいいのですが、家庭まかせにするだけでは、どうしても女性が多くのことをやりがちで、負担が大きくなってしまいます。テレワークをするうえで、それぞれの家庭が抱える問題を解決できるサポートを会社がしてくれるといいですね。企業によっては社員にベビーシッターを提供するところもあるそうです。これもとてもいい試みですね。
ゴー:新型コロナウイルスがある程度、落ち着くと、また元のオフィス勤務を主体にしたビジネス・スタイルに戻るんでしょうかね。
デベ:会社によると思いますが、在宅のよさを取り入れる企業は多いのではないでしょうか。
アメリカではすでにリモートワークが普通になってきています。アメリカのZapierというRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)のスタートアップが、2019年に880人以上のナレッジワーカーを対象にした調査では、95%の人がリモートワークで仕事をしたいと答えています。またリモートワークができる会社に移るために、75%の人が転職を考えているといいます。
https://zapier.com/blog/remote-work-report-by-zapier/
サス:日本にもテレワークが定着するのではないでしょうか。日経ウーマノミクス・プロジェクトが2020年の4月に行った調査では、在宅勤務をした女性1400人の74.8%が「新型コロナウイルス収束後も続けたい」と継続を希望したそうです。
テレワークの環境が整えば、リーダー層にもっと女性が増えてくるかもしれませんね。またテレワークのできない職種も、世の中に余裕のある働き方を求める機運が高まることで、より女性を支援する環境づくりが進むのではないでしょうか。
女性リーダーの比率を上げるには?
G7各国で管理職に占める女性の割合(2018年)
出典:ILO(国際労働機関)資料による |
サス:日本における女性管理職の比率は、海外各国と比較してもまだまだ低いのが現状です。ILO(国際労働機関)が行った2018年の調査では、世界の管理職に占める女性の割合は27.1%、日本は12%でした。
政府は2020年までに女性の管理職の比率を30%にすることを目標としていたので、かなりの開きがありますね。
ゴー:なぜ思うように増えないんでしょうね。
サス:管理職になれないんじゃなくて「なりたくない」という側面もあります。日本総合研究所の「高学歴女性の働き方に関する調査2017」では、働く女性の546人にアンケートを実施したところ、管理職への昇進を希望している人はわずか14%でした。それ以外の86%の女性たちは昇進を希望していないのです。
昇進を望まない理由としては「出世・昇進に対して関心がない」「私生活(育児・介護を含む)の時間を重視したい」「長時間労働を前提とした働き方は望まない」などが挙げられています。
デベ:こうした理由を見ると、もしプライベートの時間をちゃんと確保できて、残業や無駄な会議をなくして自分のペースで効率よく仕事ができるなら、管理職になってもいいという女性は多いんじゃないかしら。
サス:新型コロナウイルスが問題になる前ですけど、柔軟な働き方が可能になるように、フレックス制や時間単位の休暇制度の導入、社内会議や社内向けの資料作成など無駄な業務を減らして欲しいという声は、働く女性たちの間でとても強かったと思います。テレワークがスタンダードになると、こうした問題は一気に解消されることになりますね。たとえば会議資料は、会社で勤務していると人数分を出力してセットするといった作業が必要でしたが、WEB会議なら事前に配信するだけで完了しますよね。
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デベ:そうですね。さらにRPAで仕事の自動化が進むと、反復作業を中心とした事務職がなくなってきます。さらに、いま欧米ではその先をいくIPA(インテリジェント・プロセス・オートメーション)を導入する企業も増えています。これはRPAにAI(人工知能)を組み合わせたもので、定型業務だけでなく、より知的な判断を必要とする仕事もこなせるようになっています。こうなると、AIにはできない「人間性」を問われる仕事が重要性を増してきますね。
ゴー:性別による仕事の適性という壁がなくなるのではないでしょうか。今回の新型コロナウイルスの対応では、国際的には女性リーダーの動向が注目されました。ドイツのアンゲラ・メルケル首相、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相、デンマークのメッテ・フレデリクセン首相、ノルウェーのアーナ・ソルバルグ首相、フィンランドのサンナ・マリン首相、台湾の蔡英文総統など、みなさんすぐれたリーダーシップを発揮しましたね。
デベ:特にフィンランドのマリン首相は注目したいリーダーのひとりですね。2019年12月に、世界最年少の34歳で首相に就任しました。内閣は19閣僚中12人が女性で、サステナブルな社会を築くことにとても意欲的です。彼女のような指導者が世界に増えてくると、SDGsの目標を達成するのはそうむずかしくないんじゃないかと思えてきますね。
AI時代に持続可能な働きがいとは?
サス:次に8番目の目標である「働きがいも経済成長も」を見ていきましょう。詳しい内容はこうなります。
「すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する。」
ゴー:ディーセント・ワーク?聞き慣れない言葉ですね。
デベ:ILOが推進する仕事の呼び名ですね。ディーセント(decent)は、ちゃんとしたとか、まともなといった意味になるでしょうか。
サス:達成目標となるターゲットは、次の2つが特に関係が深いと思われます。
[ターゲット]8.3
生産活動や適切な雇用創出、起業、創造性及びイノベーションを支援する開発重視型の政策を促進するとともに、金融サービスへのアクセス改善などを通じて中小零細企業の設立や成長を奨励する。
[ターゲット]8.5
2030年までに、若者や障害者を含む全ての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金を達成する。
ゴー:働きがいは人それぞれだと思いますけど、最近では「働きがいのある会社ランキング」というのがありますね。
デベ:アメリカのGreat Place to Work® Instituteが実施しているランキングですね。「働きがいのある会社」は次のように定義されています。
「マネジメントと従業員の間に『信頼』があり、一人ひとりの能力が最大限に生かされている会社。優れた価値観やリーダーシップがあり、イノベーションを通じて財務的な成長を果たすことができる」。日本版は2007年から発表されています。
https://hatarakigai.info/ranking/japan/2020.html
ゴー:2020年版日本のランキングを見ると、かなり外資系の会社が多いですね。
デベ:そのようですね。グローバルな価値基準をベースにしているので、そうなるのかもしれません。でも、これはあくまでも会社という組織の話です。アメリカではインターネットを通じて単発の仕事を受注する「ギグエコノミー」のような働き方がどんどん広がっているので、個人をベースにした働きがいにも着目する必要があると思います。
フリーランスマーケットプレイスのUpworkと、サポート団体のFreelancers Unionが、調査会社のEdelman Intelligenceに依頼した2017年の予測では、2027年にアメリカのフリーランス人口が全体の50%を超えると推測しています。
ゴー:こうしたフリーランスの人たちが大半を占めるなかで、どういった経済の成長が考えられるのかも検討しておく必要がありますね。
サス:ジェンダーギャップにとどまらず、ダイバーシティの問題も大きなテーマです。障害者の方が働きがいのある仕事を続けられる世の中にできるかどうか。
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デベ:そうですね。テクノロジーの進化によって、VRやアバターなどの技術を利用して障害者の方たちが働くことが増えてきました。日本でもANAホールディングスのスタートアップ企業、avatarin(アバターイン)が新しい試みをはじめていますね。まだ開発中ですが、アメリカのAgility Roboticsという会社の屋外走行型のロボットをアバターとして使って、配達や救助を行う研究を進めています。
https://www.agilityrobotics.com/
サス:テレワークの進化で、いろいろ働きやすくなるけど、日本は世界屈指の高齢化社会です。人生100年時代のなかで仕事を続けるためには、新しいことを学び続けるなど時代の変化に合わせて働く人たちが変わっていくことが必要ですね。
デベ:その通りだと思います。組織人にしてもフリーランスにしても、自分のスキルや価値を高めることは、働きがいのある仕事を続けるうえで、とても大切といえるでしょうね。
第2回のまとめ
よりよい働き方をめざすために
目標5「ジェンダー平等を実現しよう」
を達成することが欠かせない。
- ◎ゆとりあるテレワークで女性の負担を軽減。
- ◎定型業務をRPAで効率化。より創造的な仕事を。