Hitachi
EnglishEnglish お問い合わせお問い合わせ
メインビジュアル メインビジュアル

伝統の技法をアップデートしながら 人とものを結び 人と人を結ぶ~創作水引~|中村 江美

6回表示しました

冠婚葬祭にまつわる装飾として私たちの生活に浸透している水引。その歴史は飛鳥時代にさかのぼると言われる。長い歴史をもつその水引を使ったアクセサリーやアートを作っているのが、水引アーティストの中村江美氏だ。水引の魅力と創作の秘密を中村氏が語る。

※本記事は2026年2月に掲載されたものです。
  • idomuhito90_profil_nakamura_280_280.jpg

    中村 江美

    水引アーティスト

    なかむら・えみ
    秋田県出身。2017年に水引を使った創作活動を開始。20年に「TOKYO MIZUHIKI|東京水引」を立ち上げる。G7広島サミット(23年)や、渋谷ハチ公の水引衣装インスタレーション(24年)などに作品を提供。近年は「アップサイクル水引」にも取り組んでいる。

「結ぶ」という単純な作業で多彩な形を作れるのが水引の大きな魅力

私たちにとって最もなじみがあるのは、ご祝儀袋に結ばれた紅白の紐だろう。紙幣を美しい袋に入れ、紐で装飾することで、贈りものに真心を込める。日本文化の美しさとさりげなさが表現されたあしらいの一つだ。

その美しい紐の来歴と、それが「水引」と呼ばれるようになった経緯に定説はない。一節には、飛鳥時代に遣隋使として現在の中国に派遣された小野妹子が、日本に持ち帰った土産に紅白の紐が結ばれていた。これを模して、麻を縒よって糊で固めたのが日本の水引の始まりだと言われる。固めるのに水糊を使ったから、あるいは着色の際に水を使ったから、さらには魔除けの意味を込めて水で清めたから等々、水引の名の由来には複数の説がある。

idomuhito90_img01_570_380.jpg

(左)繊細なフォルムが魅力の一輪挿し。
(右)水引は実は水にも強いので、食卓などで使う小物も多い。
写真は箸置きのシリーズ。寿司をかたどった箸置きは、外国人にも人気が高い。

初期には麻で作られていた紐は、後に紙を原料とするようになり、髪を束ねる元結などにも使われるようになった。長く貴族文化として伝承されてきた水引が庶民に広まったのは、江戸時代になってからである。江戸の寺子屋などで、女性が水引の結び方を教わることも少なくなかったという。

贈答品に水引をつける風習が人々の間に広まったのも江戸時代のようだ。もともと中国からの贈り物につけられていたものだから、本来の意味合いで普及したことになる。飛鳥時代が起源であるという説を信じるならば、今日まで実に1400年にわたる長い歴史をもつ風習である。

idomuhito90_img02_570_380.jpg

(左)梅結びを重ねたブローチ/髪飾り。金色のフィルムでコーティングした水引を使い高級感を演出している。
(右)再生紙で作った「アップサイクル水引」のネックレス。金糸で巻いた水引を加えて装飾性を高めている。

儚く見えても簡単に壊れたりはしない

創作水引作家・中村江美氏が水引を使った作品を作り始めたのは2017年だった。商業施設のデコレーションや内装を手掛けていた夫の仕事を手伝う中で、たまたま出合ったのが水引だったという。

idomuhito90_img03_570_380.jpg

「ホテルの壁に飾るアートパネルを作っている時に、安全性を考えて、できるだけ軽い素材を探していた時にたどり着いたのが水引でした。水引の素材は紙なので、大きな飾りとして使っても重くならないんです」

パネルを仕上げた後、余った水引でアクセサリーを作ったのが最初の作品となった。
それ以前に造形の趣味があったわけではなかったが、すぐに水引の魅力のとりこになったという。

「"結ぶ"という単純な作業でいろいろな形を作れるのが水引の大きな特徴です。市販の水引には500種類以上の色があるので、いろいろな色彩を組み合わせることもできます」

idomuhito90_img04_570_380.jpg

5本の水引をあわじ結びにする様子。接着剤を用いなくてもしっかりした造形に仕上がる。
水引の本数は3本、5本など割り切れない数にすることが多い。

水引作りを始めてわずか1週間ほどで、一般の人が参加するワークショップを主宰し、参加者と一緒に水引の作品作りに取り組むようになった。ワークショップは現在も続けている。

「紐を結ぶだけで、こんなにたくさんの形を作ることができるんだ。そう驚かれる方もたくさんいらっしゃいます。そういう方々と一緒に水引に触れることで、私自身のアイデアもどんどん膨らんでいきました」

自身の創作水引のブランドを立ち上げたのは2020年、ブランド名は「TOKYO MIZUHIKI|東京水引」とした。現在は、東京・目黒にブティックを構え、自作のアクセサリーや小物類を販売している。

idomuhito90_img05_570_380.jpg

紙を原料とした水引をアクセサリーとして身につけても大丈夫なのだろうか。ついそう考えてしまうが、何の心配もないと中村氏は言う。市販されている水引の多くは、防水性・防湿性に富んだ素材である蒸着フィルムや、化学繊維の一種であるレーヨンなどでコーティングされている。だから見た目の繊細さに反して、実は耐久性に優れているのだと。

「蒸着フィルムを使った水引は、水に長時間漬けておいてもほぐれたりすることはありません。儚く見えても、簡単に壊れたりはしないのも、水引のアクセサリーの大きな魅力です」

東京水引の店舗には、イヤリング、ピアス、イヤーカフ、ネックレス、ブローチ、髪飾りなどのアクセサリーの他、一輪挿し、ランプシェード、壁飾りといった多彩なアイテムが並ぶ。すべて中村氏が手がけたものだ。作る際にはデザインスケッチなどは一切用意せず、仕上がりをイメージすることもほとんどないという。

idomuhito90_img06_570_380.jpg

(左)あわじ結びを組み合わせて作った立体的なブローチ
/髪飾り。複数の色の水引を組み合わせている。
(右)水引には曲線のイメージがあるが、
このような直線的なデザインのアクセサリーも作っている。

idomuhito90_img07_570_380.jpg

(左)あわじ結びをアレンジして作ったイヤーカフ。
人気商品の一つだ。
(右)樹脂でコーティングしたアジサイの花びらと、
4本の水引を組み合わせて作ったイヤリング。

「手が勝手に動いていく感じです。一つのアクセサリーが数分でできてしまうこともよくあります。逆に時間がかかる時は、いいものができないことが多いですね」

店舗での接客などの時間以外は、常に手を動かし続ける。途中まで作業を進め、しばらく寝かせた後で、再び手をつけて作品に仕上げるケースもある。アクセサリーを作ろうと思っていたら、壁掛けができてしまった。そんなクリエイティブなアクシデントもよくあるという。

「手を動かしていると、忘れていた昔の記憶がたまによみがえってきたりします。子どもの頃に遊んでいた木の洞、防波堤、父に連れて行ってもらった美術館―。そういう無意識のイメージが作品作りに活かされているような気がしますね」

1400年の歴史を後世につないでいく

水引には、あわじ結び、蝶結び、梅結びなど伝統的な結び方がある。そういった伝統を大切にしながら、一方で新しい手法に果敢にチャレンジしていくのが東京水引のコンセプトだ。中村氏はそのコンセプトを「水引をアップデートする」と表現する。

リサイクルした紙資源を使った作品作りも、「水引をアップデートする」取り組みの一環だ。資源を有効活用することで、持続可能な社会づくりをめざす一般社団法人アップサイクル。およそ50社の企業が参画し、東京水引もメンバーとなっているその団体のプロジェクトから生まれた「アップサイクル紙糸"TSUMUGI"」を用いて、「アップサイクル水引」を作っている。市販の水引とは手触りの異なる生成りの風合いを活かした作品に、サステナビリティをめざすメッセージを込める。しかし、メッセージだけで作品を買ってもらえるわけではない。社会的に意義ある素材を使いながら、あくまで作品の魅力によって手に取ってもらえることをめざしたい。そう中村氏は話す。

idomuhito90_img08_570_380.jpg

水引で作ったランプシェード。アクセサリー以外に、このような小物の作品も数多くある。

ブランド以外の活動にも積極的に取り組んでいる。2023年のG7広島サミットの際は、夕食会に用いる全長24mの水引のテーブルランナーを提供し、伝統工芸の担い手に贈られる「三井ゴールデン匠賞」の奨励賞を受賞した。「世界の国々を結ぶ」という意味を込めたと中村氏は説明する。

「紐を結んで形を作っていく水引には、"人と人を結ぶ"という意味合いがあると私は考えています。水引をつけた贈り物は、贈る人と贈られる人を結ぶものです。東京水引のアクセサリーをプレゼントに選んでいただくことが多いのも、水引の意味を理解していただいているからだと思っています」

創作のアイデアは常に溢れている。水引の間口を広げ、水引の魅力を多くの人に知ってもらいたい。その強い思いが創作の原動力となっている。伝統と新しい試みの間を行き来しながら、表現を常にアップデートしていくことで、人とものを結び、人と人を結び、伝統と今を結ぶ。そうして、1400年の歴史を後世につないでいく―。そんな思いを胸に、中村氏は今日も水引に向かい続けている。

idomuhito90_img09_570_380.jpg

取材後記

中村さんが手掛けた創作水引の作品がずらりと並ぶ東京・目黒の事務所兼店舗でお話を伺いました。販売されているアクササリーや小物の中には、一見水引には見えないものも多く、中村さんの独創性が東京水引というブランドの魅力であることがよくわかりました。誰かに習ったわけではなく、独学で創作方法を身につけたからこそ、誰にも真似のできないオリジナリティに溢れた作品が生まれているのだと思います。創作のアイデアは次々に湧き出てくると話す中村さん。水引の裾野はますます広がっていきそうです。

前の記事
記事一覧
X facebook
新着記事
イベント情報

SOLUTION

CORE SOLUTION

SOLUTION MOVIE

COMMUNITY
チャットルームのご案内
コミュニティ『ハロみん』のチャットルームであなたを待っている人がいる。
日立ソリューションズはオープンなコミュニティ『ハロみん』でサステナビリティをテーマに活動しています。
みんなでより気軽に、より深く繋がれるよう、無料のオンラインチャットルームをご用意しています。
情報収集や仲間探しなど、さまざまな話題で自由にお話ししましょう。
ぜひご参加ください。