Hitachi
EnglishEnglish お問い合わせお問い合わせ
メインビジュアル メインビジュアル

働く人が"ご機嫌に自律自転"する組織を増やしたい|中尾 隆一郎

27回表示しました

このままでは時流に乗り遅れてしまう。焦りはあるものの、「方法が分からない」「経営が変化を嫌う」などと手をこまねいている人はいないだろうか。中尾隆一郎氏は、現場に権限を移譲し幸せに"自律自転"する人を増やすことが会社の持続的成長につながると説く。そのカギを握るのが中間管理職層だとも。どういうことか。

※本記事は2025年8月に掲載されたものです。
  • idomuhito82_profile_nakao_280_280.jpg

    中尾 隆一郎

    中尾マネジメント研究所
    代表取締役社長

    なかお・りゅういちろう
    中尾マネジメント研究所 代表取締役社長。大阪大学大学院工学研究科修士課程修了後、リクルートに入社。率いたチームが顧客満足度、従業員満足度が共に高いことから独自のマネジメントを考案、社内講師を11年間務める。2019年より現職。『最高の結果を出すKPIマネジメント』(フォレスト出版)ほか、著書多数。

権限委譲がご機嫌な現場をつくる

―中尾マネジメント研究所は、「自律自転」する人・組織づくりを掲げておられます。"自律自転"とはどういうことでしょうか?

自分で考え判断し、実行して、振り返り、学ぶというサイクルを回し、成長していくことです。自律自転できる人の多い組織は業績が向上します。業績が向上すれば、働く人がやりがいを感じ、またサイクルを回す。こういう人が増えれば組織も自律自転します。当社はこの好循環をつくる支援をしています。

idomuhito82_img01_570_570.png

―設立の経緯を教えてください。

私はリクルートグループに29年間在籍し、最後の10年は2つの領域で事業責任者として組織拡大を担いました。通常、組織を急に大きくすると従業員満足度が下がりますが、担当した組織は従業員満足度も顧客満足度も下がらず業績も好調でした。なぜこのような成果を出せたのか――。その研究が私のミッションになりました。結論を言うと、現場に適切に権限委譲できたことがカギでした。

―適切な権限委譲とはどのようなものでしょうか?

権限委譲というと、現場への丸投げをイメージする人もいるかもしれませんが、そうでなく、やってほしいこと、やってはいけないこと、報告の仕方を決めて、あとは自由にしていいという状況をつくったのです。例えばゴルフなら、ルールとフェアウェイを教え、ホールごとにスコアボードで共有する内容を決めてあとは自由にプレーしてもらうというやり方です。権限委譲の判断は"人ごと"でなく"業務ごと"に決めると効果的です。ある社員が4つの業務を抱えている中で1つだけ不慣れなものがあったら、3つは権限委譲して残りの1つはアドバイスや指示を行うという進め方です。

―中尾さんが担当した2つの組織は、それができていたのですね。

はい。米国の心理学者カール・ロジャーズは、「人は自分でやることを決める時に幸せを感じる」と説いています。自分で決められるから楽しく自律自転しているのだと考えました。

この仕組みをリクルートのグループ内に広げる活動をし、他社にも応用して、幸せに働ける組織を増やせないかと考え、会社を設立したというわけです。

idomuhito82_img02_570_380.jpg

ミドル層が3つの経営の中核に

―働く人が幸せで業績が伸びるというのは理想の姿です。

私は経営に本当に必要なマネジメントは、「KPIマネジメント」、「TTPSマネジメント(※1)」、「G-POP®マネジメント」の3つだと考えます。企業は部や課ごとに部分最適に陥りがちです。例えば、集客担当は集客数を稼ぐためにインセンティブをばらまき、営業担当は事実を誇張して成約数を稼ぐ。これでは顧客は定着しません。そうでなく、会社として共通の目標を持ち、全体で同じ目標をめざそうというのが、「KPIマネジメント」です。そして、うまくいっている部署があればノウハウを共有しようというのが、「TTPSマネジメント」です。

※1:中尾氏の提唱する事業成長のための方法論。TTPS=TTP(徹底的にパクる)+S(進化させる)仕組み。
TTPの語源は、大手流通業や大手下着製造・販売会社の創業者が提唱したなど、諸説ある。

「G-POP®マネジメント」は、私が好業績の人たちの仕事を観察し発見した方法で、現場の自律自転を促すマネジメントです。業績の良い組織ではG=ゴールを常に意識し、P=事前準備に時間をかけ、O=結果を評価し、P=振り返りから学ぶというサイクルが回っていました。この4段階を根づかせると、現場は自然に自律自転していきます。

―3つが実現すれば、経営層は安心して現場に任せられそうです。

その通りです。現場と経営、各部門が同じ目標に向かいつつ、現場が自律自転する。だから経営陣は細かいことは現場に委譲し、必要な経営に集中してスピーディーな判断ができる。そして部門の垣根を越えてナレッジを共有し、ソリューションを進化させ成長できる。これらはミドルマネージャー層(中間管理職層。以下、ミドル層)から始めると、より効果的です。

idomuhito82_img03_570_380.jpg

―ミドル層がカギになるのですね?

はい。KPIを軸に現場からの情報を経営に上げるのも経営判断を現場に下ろすのも、他部門と情報共有するのも、ミドル層が主体となると効率的です。メンバーにどの業務を権限委譲すればいいのか判断できるのもミドル層だし、この層が自分の判断軸を言語化することで、権限委譲もよりスムーズになります。

トップダウンでもボトムアップでもなく、ミドルアップダウンできる体制が、会社全体の変革を促進します(図参照)。

idomuhito82_img04_570_319.jpg

目の前の人を幸せにすること

―ミドルアップダウンのために、経営層とミドル層は、それぞれ何をすればいいでしょうか?

まずミドル層の人は、「自分のチームをどうしたいのかは自分で決めていい」という考えを持つことです。例えば会議を改善したい場合。会議のアジェンダが「アイデア出し」なのか「決議」なのか「報告」なのかを明確にすることで、事前準備ができ、Goal(目的)が明確になり生産性が向上します。

会議のアジェンダを明確にすることに限らず、自組織をよりよくするために、ミドル層がいろいろ実験すればよいのです。ただ、上司に相談すると、管理部門から指摘されることを懸念して、「言いたいことは分かるけれど、今回は見送ろう」という消極的な判断になりがちです。でも実験しなければ改善はできない。それであれば、チーム内で小さく実験する分には失敗しても誰にも迷惑はかからないはずです。会社が掲げるゴールから逸れていない限り、相談せずにやってみればいいのです。

―実験してみて振り返り、学ぶ。まさにG-POP®をミドル層が実践するというわけですね。

そうです。もっと簡単な方法は、よそでうまくできている例を見つけて、それを取り入れることです。大体どの会社でも、自律自転できている人が2割程度いるものです。「あの部署は会議時間が短いけれど、どうやって実現しているんだろう」と思ったら、その方法を聞いて自分のチームで実践してみるといいでしょう。

idomuhito82_img05_570_570.png

―「TTPSマネジメント」ですね。では経営層は何をすべきでしょうか?

適切なKPIの設定は当然として、部署間でまねし合える環境を整えることです。成果を出している人や部署を見つけ、知見を横展開する場をつくるとか、社内報でやり方を紹介するなど、方法はあります。

リクルートグループのある会社では、誰が何をして成果がどうだったのか、ほぼリアルタイムで見えるようにしていました。ナレッジが共有できるだけでなく、成果を出した人がやりがいを感じ、自律自転が促されます。こういう環境をつくることも会社の役目です。

―昨今は企業の協創も重視されています。より良い協創のための考え方を教えてください。

相手へのリスペクトを忘れないことです。特に大企業が小さい企業と協働する際に、情報交換を自分たちが有利な形で進めようとすることもありますが、そのような発想は、長期的に見ると損です。企業の信用を損ね、現場も経営を信頼しなくなります。

企業のサステナビリティを考えるなら、目の前の人をご機嫌にする発想が大事です。自分がしたことで顧客や仲間が幸せになったら、自分も機嫌良く働き続けられます。そういう人が多い組織は業績が向上し企業も持続可能になる。人が幸せに働き続けられる会社が増えることは、「三方よし」の理念にも通じ、社会の持続可能性にも寄与します。その点でも、会社が現場の自律自転を促し、成果を見える化することは大事ですね。

idomuhito82_img06_570_380.jpg

取材後記

チームリーダーになると、「どうやったらチームをまとめられるのか」に終始し、「どんなチームでありたいのか」という点に考えが及びにくいものです。リーダーが目指すものと判断の軸を明確にすることが、メンバーの自律自転を促し、みんながご機嫌で働く土壌をつくるというお話に、目からうろこが落ちた思いです。

前の記事
記事一覧
X facebook
その他のシリーズ
新着記事
イベント情報

SOLUTION

CORE SOLUTION

SOLUTION MOVIE

COMMUNITY
チャットルームのご案内
コミュニティ『ハロみん』のチャットルームであなたを待っている人がいる。
日立ソリューションズはオープンなコミュニティ『ハロみん』でサステナビリティをテーマに活動しています。
みんなでより気軽に、より深く繋がれるよう、無料のオンラインチャットルームをご用意しています。
情報収集や仲間探しなど、さまざまな話題で自由にお話ししましょう。
ぜひご参加ください。