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株式会社ALE代表取締役社長

岡島 礼奈

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小型人工衛星から金属の粒を宇宙空間に放出して、流れ星を人工的に作り出す研究を進めている岡島礼奈氏。人工流れ星による宇宙エンターテインメントで子どもたちに「宇宙は面白い」「宇宙はきれいだな」と楽しんでもらいたいと語る岡島氏に話を聞いた。

※本記事は2022年9月に掲載されたものです

世界で初めての流れ星による宇宙エンターテインメント

岡島礼奈(おかじま・れな)プロフィール

1979年鳥取県生まれ。株式会社ALE代表取締役社長。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士課程修了(理学博士)。2008年ゴールドマン・サックス証券に入社。2009年から人工流れ星の研究を始め、2011年に株式会社ALEを設立。2019年にJAXAイプシロン4号ロケットで打ち上げられたALEの2機の小型人工衛星は、現在も軌道上を周回中。

※黒字= 岡島礼奈 氏

──まずは御社の主な事業について教えてください。

中心となっているのは、私たちが"宇宙エンターテインメント"と呼んでいる人工流れ星事業です。他に、気候変動のメカニズム解明や気象予測の精緻化に役立てる大気データ測定技術と、人工衛星やロケットを宇宙ゴミ(デブリ)にしないデブリ化防止装置という、3事業を軸として展開しています。

──人工流れ星とはどのような技術なのでしょうか。

天然の流れ星は、宇宙空間に漂っている塵などが大気圏に突入する時に光る現象です。この現象を人工的に起こそうというのが、私たちが進めている「Sky Canvas」です。小型人工衛星から直径1センチメートルほどの金属の粒を宇宙空間に放出して、流れ星を作り出します。

このアイデアを思いついた当時は小型人工衛星などなく、コスト的にとても実現できるレベルのものではありませんでした。数年たって超小型衛星研究のパイオニアとして知られる東京大学の中須賀真一教授の研究を知り、これならば実現できるのではないかと思ったのです。そして2009年頃から人工流れ星の研究を本格的にスタートさせ、11年にALEを設立しました。

上/人工衛星の模型(バス部) 下/人工衛星の模型(ミッション部)
上/人工衛星の模型(バス部)
下/人工衛星の模型(ミッション部)

──流れ星による「宇宙エンターテインメント」は、どういう発想から生まれたのでしょうか。

私自身が空を見上げて宇宙に思いを馳せることがすごく好きなので、同じように楽しんでもらいたいという思いからでした。科学に関心がない人もエンターテインメントの部分に惹かれて、そこから科学に興味を持ってくれるかもしれない。そんな期待感はあります。

──一方、大気データ取得やデブリ化防止装置は、人工流れ星から派生した技術ということですか。

はい。すべてのアイデアは人工流れ星から来ています。中間圏と呼ばれる上空60キロメートルから80キロメートルを流れる流れ星を地上から観測して大気データを取得できるのではないかと思ったのが始まりでした。現在は、人工衛星に搭載したセンサーで大気中に含まれる水蒸気などを観測し、近年日本でも多大な被害をもたらしているゲリラ豪雨や線状降水帯の予測精度向上に役立てることも考えています。

また、デブリ化防止については、以前から問題視されているデブリを使って流れ星を作ることができれば、サステナブルでいいのではないかという発想でした。役目を終えた人工衛星を軌道から離脱させてデブリ化させないEDT(エレクトロダイナミック・テザー)というデバイスをJAXA(宇宙航空研究開発機構)と共同で開発中です。

科学を進化させるため経済を学ぶ場として外資系証券会社を選択

──どのようなきっかけで宇宙に興味を持つようになったのですか。

私の出身地である鳥取県は「星取り(ほしとり)県」と呼ばれるほど星がきれいに見えるところなので、子どもの頃から夜空を見上げることが好きでした。また、中高生時代にはやっていた『ホーキング、宇宙を語る』※を読んで、人間の想像を超える宇宙という存在に興味を持ち、もっと宇宙のことを知りたいと大学で天文学を専攻しました。

※初版1995年発行 スティーヴン・W. ホーキング (著) 早川書房

──大学在学中にもベンチャー企業を起業されているそうですね。

学生時代、生活費を稼ぐためにアルバイト先を探していたところ、知人から「理系学生ならプログラミングができるだろうから、プログラミングの仕事をすればいいのでは」と言われまして。私は自分でプログラミングができなかったのですが、周囲のプログラミングができる友人たちを募ってゲームなどを作る仕事をしていくうちに、取引先から「学生団体には仕事を依頼できない」と言われて法人化したという経緯でした。専門スキルのある人を集めてくるというスタイルはその時に確立したのかもしれません。

──大学院を卒業したあと、新卒で証券会社に就職されたのはなぜですか。

科学を進化させるために自分に何ができるかを考えた結果です。と言うとかっこよく聞こえますが、周りの優秀な研究者たちと比べて自分は研究者に向いていないと気づいたことが研究の道に進まなかった理由の一つですね。

それでなぜ証券会社に就職したかというと、天文学の研究に携わる中で「お金があると遠くが見えて、遠くが見えると科学が進化する」と痛感したからです。大学時代の指導教官の先生はチリに天文台を造るための資金集めに奔走していましたが、近年著しく進歩している観測技術を実現するには膨大なお金がかかります。と言うと身も蓋もないですが、結局は科学を発展させるためにはお金がかかるのです。そこから強くお金のことを意識するようになり、資本主義の最先端と考えたゴールドマン・サックス証券に入社することにしました。

──証券会社の仕事はご自身に向いていたと思いますか。

戦略投資部という人気の部署に配属され、仕事自体はとても面白かったです。どんな激務も苦ではなかったのですが、正直に言うと、やはり向いていなかったと思います。しかし、自分の意思とは関係なく、リーマンショックで会社にいられなくなってしまったので、1年ほどで証券会社は退職しました。

その後は、友人と一緒に新興国のビジネスコンサルをする会社を立ち上げたりして、09年から人工流れ星の活動を始めました。

──ALEのビジネスの上で大切にしていることはありますか。

会社を設立してしばらくはふんわりとした目標しか設定しておらず、チームビルディングに失敗した反省から、「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」というミッションと、「宇宙を、好奇心に動かされた人類の、進化の舞台にする」というビジョンを改めて設定しました。それ以来、ビジョンに共感してくれる人が入社してくれるようになりましたし、意見の対立が起きそうな時も明確な判断軸ができたことでより有益な議論ができるようになりましたね。自分自身もビジョンを体現する存在でありたいと思っています。

ALEの持つ、人工流れ星、小型衛星、プラズマ技術を活用しこれまで得ることが難しかった大気データを高頻度で取得する
大気圏での事業内容
ALEの持つ、人工流れ星、小型衛星、プラズマ技術を活用し
これまで得ることが難しかった大気データを高頻度で取得する

宇宙を知ることで地球環境をよりよく人類を幸福に

岡島礼奈氏

──民間の宇宙ビジネスへの期待が大きくなっていると感じることはありますか。

ここ数年は、10年前とはまるで違います。国の宇宙基本計画の中でも宇宙スタートアップとの協業を明文化していますし、ベンチャーキャピタルなどの投資家たちも宇宙ビジネスに対して積極的に投資するようになりました。10年前「宇宙への投資」はメジャーではありませんでしたから、時代が変わってきたことを感じます。

──これから御社のビジネスをどのように発展させたいとお考えですか。

今後、宇宙開発は人間の生存の範囲を広げていく方向で進み、宇宙企業の多くは人類が地球に住めなくなった時を想定して宇宙開発をしていくと思います。しかし、私たちの考えは少し違っていて、地球に住み続けるためにも宇宙開発をするというスタンスです。例えば、宇宙空間という極限状態で生きていくことは砂漠で生きることにも通じるものがあり、リバースエンジニアリングという形で応用できるはずです。そのように宇宙で得られる技術を、地球のために還元していきたいと考えています。

──宇宙をターゲットとすることは揺るがないのですね。

そうですね。私たちは「科学を進化させる会社」だと自負していますから、私たちのビジネスの所在は宇宙です。宇宙に関する技術を使いながら、その知見を人類のために生かしていきたいです。

──宇宙から見えた地球環境の問題点は何だと思いますか。

問題だらけではありますが、動物や植物の種類が減って生物多様性が失われているのがとても怖いことだと思っています。現在の異常気象や地球温暖化は確かに人間や動物にとって住みにくく、問題ではありますが、地球規模で考えれば氷河期やさらに高温だった時代もあり、今の地球環境など誤差の範囲でしかないのかもしれません。とはいえ、人間の活動によって明らかに生物の種類や自然が減っているということが地球環境にとって大きな課題ではないかと思うのです。

岡島礼奈氏

──そのような問題に対して、科学を進化させることで対応していきたいということでしょうか。

人類が生み出す科学技術は進歩し続けていて、もはや昔のような生活には戻せません。しかし、テクノロジーの進化により自然が破壊されている一方で、それを修復するのもテクノロジーであると信じています。先端科学により様々な現象のメカニズムが明らかになるほど、すべきことが分かりますし、具体的な対応策も示せると思います。

──人工流れ星はいつ頃見られそうですか?。

数年以内に人工衛星を打ち上げ、実現できるように進めています。子どもたちに「宇宙は面白い」とか「宇宙はきれいだな」と思ってもらい、夜空を楽しんでもらいたいですね。私も毎日のように夜空を見上げて、そのたびに感動することがあります。私たちが作る人工流れ星の良さは、人それぞれの楽しみ方ができることにあります。ぜひ夜空を見上げて、それぞれの受け止め方で楽しんでもらえたらうれしいです。

岡島礼奈氏
〈取材後記〉
大学院時代、ブラックホール周辺で激しく活動する銀河(活動銀河核)から、観測的宇宙論を研究していた岡島さん。宇宙の起源にもかかわる研究をしていたからでしょうか、社内で開催されたという"ビジョン飲み会"では、「5億年後の人類のことを考えてみよう」をいうテーマで話し、5億年後の地球や宇宙全体を想定してアイデアを出しあったりしたそうです。そんな岡島さんが何より大切にしている「好奇心(Curiosity)」を土台として、宇宙への興味、あくなき探究心、チャレンジ精神が加わることで、間もなく人工流れ星が実現します。岡島さんが作った流れ星が瞬く夜空を見上げるのが、今から楽しみです。

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