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【対談】未来へ向かうビジネスのデザイン

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人間の創造性の本質を論じた『進化思考』の著者でありデザインストラテジストとして多方面で活躍する太刀川英輔氏と、日立ソリューションズで新たなビジネス創出をめざす渡部二郎。2人が考えるこれからのビジネスの形とは──。

※本記事は2025年1月に掲載されたものです。
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    太刀川 英輔

    NOSIGNER代表、JIDA(日本インダストリアル協会)理事長、WDO (世界デザイン機構)理事、デザインアクティビスト

    たちかわ・えいすけ

    生物の適応進化から創造性の本質を学ぶ方法を論じた『進化思考』を2021年に出版。大きな話題を集める。
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    渡部 二郎

    株式会社日立ソリューションズ
    常務執行役員

    わたべ・じろう
    横浜生まれ。90年に日立ソリューションズの前身となる会社に入社。以後、開発事業部、クロスインダストリソリューション事業部などを経て、ビジネスイノベーション事業部長に。24年、常務執行役員に就任する。

見えにくいものの価値を伝えていくことの大切さ

渡部:太刀川さんは、東京都の全世帯に配布されている防災ブック『東京防災』のアートディレクションを手がけていらっしゃいます。従来の防災マニュアルなどと比べると各段に分かりやすく、いざという時に間違いなく役に立つ冊子だと思います。私たちも、世の中に役立てていただけるシステムやソリューションを提供する仕事に日々取り組んでいます。その中には、社会に欠かせないインフラになっているものも少なくありません。しかし、システムなどのテクノロジーは直接人々の目に触れるものではないので、社会的価値を認知していただくのが難しい。そんな悩みがあります。

太刀川:目に見えにくいものの価値を理解してもらうのは大変ですよね。 そんな場合に必要なのはブランディングとコミュニケーションです。自分たちのビジネスの価値の「伝え方」を再発明する。そんな戦略づくりが大切だと思います。

例えば優れたシステムには「安心・安全に使える」だけでなく、「環境に寄与する」価値もあるはずです。多くのシステムがクラウド上で活用できれば、ハードウェアの数が減り、資源削減になります。少ない電力で稼働するシステムは、サステナビリティへの貢献になります。しかし、そう表現されていなければ伝わらないでしょう。

渡部:AI活用が世界中で進んでいますが、現在のところ、AIを稼働させるには大量の電力が必要です。いかに少ない電力でAIを動かすか。デジタルテクノロジーをうまく活用すれば、そのような課題を解決することも可能だと思います。

太刀川:自分たちの技術資産には、応用次第で様々な価値と可能性がある。そのことを捉え直し、社会に伝える方法を見つけることがまさしくブランディングです。その活動に注力することで、企業価値は確実に向上すると思います。

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リサイクルプロジェクトをいかに事業化するか

渡部:私が事業部長を務めているビジネスイノベーション事業部では、社会課題解決への積極的な取り組みを推し進めています。最近取り組んだのがペットボトルの水平リサイクル推進プロジェクトでした。ペットボトルの再資源化が現在大きな社会課題になっています。その課題を解決するために私たちにできることはないか。メンバーからのそんな発案を受けて、まずはリサイクルの実証実験を社内で行うプロジェクトを立ち上げようということになりました。

プロジェクトを進めるにあたって世の中の現状を調べてみたところ、ペットボトルの回収率はおよそ94%に上ることが分かりました。しかし、回収したペットボトルから再びペットボトルをつくる水平リサイクル率は30%程度にとどまっています。では、社内のペットボトルの分別回収率はどのくらいか。調査してみた結果、恥ずかしながらわずか29%でした。この数字を上げる仕組みがつくれれば、事業化できるのではないか。そう私たちは考えました。

太刀川:興味深いチャレンジですね。結果はどうでしたか。

渡部:リサイクルステーションで一括回収する仕組みをつくり、ポスターや動画などで呼びかけた結果、回収率は96%まで上がりました。

太刀川:それはすごい。事業化への道筋は見えましたか。

渡部:まさに今検討しているところです。太刀川さんは、どこに事業化のポイントがあると思われますか。

太刀川:お話を伺って「分別が進むごみ箱」をつくってみたいと思いました。リサイクル率を上げるには、捨てる際の分別がしっかり行われなければなりません。そのためには分別したくなるごみ箱が必要です。ごみ箱はリサイクル事業におけるユーザーとの接点、つまりインターフェースです。取り組みの意義を伝え、その意義に沿った行動を喚起するには、インターフェースのデザインが非常に重要です。

渡部:太刀川さんのようなデザインのプロの知見をお借りすれば、そんなごみ箱がつくれそうですね。

太刀川:せっかく皆さんとやるならば、事業性があるものにしないとですね。事業をデザインし、必要なシステムをデザインし、インターフェースをデザインする。そんなトータルな取り組みから世界中のゴミが減ったら面白いですね。

渡部:システムはまさに私たちが得意とするところです。データを見える化したり、画像解析による分別の仕組みをつくることで、リサイクルの動きを加速させられそうです。

太刀川:そんな姿勢の企業であり、また事業だと発信するブランディングやコミュニケーションのデザインも大切です。リサイクル事業の社会的意義を上手に言語化できれば、事業の成功の可能性は高まりますからね。

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社会貢献活動を事業成長につなげていく

渡部:私たちのようなIT企業にとって、デザインにはどのような意味があると思われますか。

太刀川:大きな意味合いがあると思います。あるIT系グローバル企業は、現在社内におよそ5000人のデザイナーを抱えているそうです。なぜIT企業にそれほどのデザイナーが必要なのか。それはデジタルテクノロジーが生み出す未来の社会的価値を先んじて可視化するためです。

変化の早い世の中に継続的にベネフィットを提供していくには、社会が今後どのように変化するかを予測し、未来に向けたビジョンをつくり、事業コンセプトを整え、プロダクトを開発するという一連の取り組みが必要になります。そのすべてに関わるのがデザインです。ビジョンは現代の企業にとって欠かせないものですが、本来ビジョンとは「視覚」のことです。先端技術を手がける企業が何をめざしているのか。それを誰もが見える形で表現することがビジョンづくりの本質であり、そこにデザインの力が活かされるのだと思います。

渡部:未来に向けたグランドシナリオを構想し、その中で自分たちのビジネスがどう力を発揮できるかを考える。その取り組みの全体がデザインであるということですね。

太刀川:そうです。未来は必ずしも現在のビジネスの延長線上にはありません。例えば、この先起こり得る気候変動に対応するために、今からビジネスの方向性を軌道修正する必要があるかもしれない。ビジョンのデザインには、そのような「非連続性」の視点を組み入れておく必要もあります。

渡部:サステナブルな社会をつくるために何を解決しなければならないのか。そんな視点からビジネスを組み立てていく発想が必要なのだと思います。そのためには、私たち自身が変わらなければなりません。

日立ソリューションズは、2023年4月に新しいMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を策定しました。企業理念にあたるミッションを、私たちはこう表現しました。「時代の先を見つめ、変化を先駆ける。確かな技術と先進のソリューションで、地球社会の未来をみんなと切り拓いていく。」──。未来を見つめること。多くの人たちと力を合わせて未来をつくっていくこと。ミッションに込められたそれらの思いは、まさしく太刀川さんのお話と響き合っていると思います。

しかし、文言をつくっただけでは何も変わりません。MVVの策定は一つのスタートです。そこから未来に向かってどんな行動ができるかが試されています。

新しい行動を方向づけるために、私は部のメンバーに「社会課題に向かって思い切り視野を広げてみよう」といつも言っています。幅広い視野で世の中の課題を見渡してみれば、その解決に自分たちの専門分野であるITを役立てられる道筋がきっと見えてくるはずです。

まずは自分の視界を可能な限り広げてみる。そこから独自の発想を生み出してみる。そして、その発想を次の時代の新しいビジネスにつなげていく──。そんな思考やマインドを事業部の中に根づかせていきたいと私は思っています。

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太刀川:社会に様々な課題があるということは、事業成長につながるたくさんの「種」があるということです。特に気候変動は、人類全体にとって喫緊の課題です。地球環境が限界に近づきつつあると言われる中で、テクノロジー系の企業には課題解決に貢献できる力が間違いなくあると思います。今は純粋な社会貢献活動に見えることでも、その取り組みが将来的にビジネスにつながっていく可能性は大いにあります。社会貢献を事業成長につなげるための仮説をつくる力。そしてその仮説を基に、未来への道筋を具体的に構想していく力。それがこれからのテクノロジー企業には求められるのではないでしょうか。

渡部:今後、社会的意義のあるビジネスを太刀川さんとご一緒できる機会もありそうです。

太刀川:ご一緒できたらすてきですね。気候変動に適応する都市の仕組みをつくることが、自分にとってのライフワークの一つになると僕は考えています。例えば、サステナブルな街づくりのようなプロジェクトには、僕がこれまで蓄積してきた様々なノウハウやネットワークを活かせるはずです。そのようなプロジェクトでコラボレートさせていただくことができたら、とても素晴らしいと思います。

渡部:私たちが太刀川さんのライフワークにお役に立てる場面もきっとあると思います。未来の社会をより良くしていくための取り組みを共に模索していきましょう。

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